
初めての縄の喜び |ぷりずむがーでん
初めての縄の喜び|d_563142| ――ふつうの家の、ふつうじゃない夜休日の夕方。夕飯の後片付けを終え、ソファでぼんやりしていた私に、彼がふいに言った。「ねえ、ちょっと遊んでみない?」「……遊ぶって?」「縛るの。ちょっとだけ、試してみない?」食器を拭いていた手が止まる。思わず振り返ると、彼はニヤリとした笑みを浮かべていた。冗談かと思った。だけど、その目は真剣で、どこか興奮しているようにも見えた。「え、いきなり何それ……本気?」「うん。嫌なら、もちろんやめる。でも、君なら……きっと綺麗だと思う」その言葉に、なぜか胸の奥がざわついた。この人となら――そう思った私は、静かに頷いた。「じゃあ、ちょっとだけ……ね?」彼が取り出したのは、部屋着の引き出しに入っていたシンプルな布紐。まさか、こんな日常的な場所で、こんなことになるなんて、さっきまで想像もしていなかった。リビングのラグの上に、座った私の後ろに回ると、彼の指が優しく、けれど確かに私の手首を結んでいく。初めて味わう、束縛される感覚。逃げられない不自由さと、それに反比例するように、妙な安心感。「どう? きつくない?」「ううん……なんか、変な感じ……でも、嫌じゃない」布が肌に触れる感覚すら敏感に感じてしまう。手を後ろに組まれ、軽く脚を抱えるようにして座らされた。何もできないまま、彼の視線だけが刺さってくる。「ねえ……見ないでよ、恥ずかしい……」「だって……めちゃくちゃ色っぽいんだもん」リビングの白熱灯の下、パジャマ姿のまま縛られている自分。非現実みたいだけど、ここはいつもの我が家。なのに、身体の奥がじんわり熱を持ちはじめていた。「縛られるって、どうしてこんなに……」「感じるんだろうね。支配されるって、安心するのかも」彼の指が、背中にそっと触れる。手のひらで、なぞるように肌を滑っていく。普段なら気にもしないはずの触れ方なのに、動けない状況でそれをされると、ゾクリと身体が跳ねた。「やだ……そんなふうに、触られたら……っ」「もっと、感じていいよ。ほら、声も出して」彼の手は胸元へ、そして脚の間へ――。動けないことが、こんなにも身体を敏感にさせるなんて。「や……だめ、そこ……あっ……!」ソファのクッションが背中を支え、布紐が手首を引き寄せる。その無防備な姿勢で、何度も優しく、でも深く責められる。彼の吐息と、私の甘い声が、静かな部屋にこだまする。「すごい……普段より、感じやすくなってるよ」「そんなの……当たり前……だよ……」床に散らばる布紐、乱れたパジャマ、ほのかに香る夕飯の残り香。そのどれもが、異常にエロティックに感じられた。何度か絶頂を重ねたあと、そっと手首を解かれた。「痛くなかった?」「ううん、大丈夫……むしろ……癖になりそう」彼の手が頬に触れ、静かにキスを落とす。テレビもスマホもつけていない、ただ二人だけの時間。見慣れた部屋で、知らなかった自分が目を覚ました。ふつうの夜、ふつうの家。でも――この夜だけは、きっと忘れられない。